アラン・シリトー『漁船の絵』
二十八年間、郵便配達をしてきた。と、この書き出しで我慢してくれよな。 《冒頭より》
新潮文庫『長距離走者の孤独』(短編集)所収『漁船の絵』 アラン・シリトー(以下シリトー)という作家で有名な作品というと、おそらく『長距離走者の孤独』ということになるんじゃないだろうか。もちろん『長距離〜』も良い作品ではあるけれど、スロースロップは『漁船の絵』の方が好きだ。
この小説をどう読むか。恋愛? 喪失感?
シリトーはアナーキーな作家として、いわゆる《怒れる若者たち》という英文学の一派に見なされているが、よくよく調べて見ると、《怒れる若者たち》のほかの作家連は一流大学卒のバリバリのインテリばかり。シリトーはバリバリの労働者。この差は大きい。インテリで恵まれてるやつの怒りなんてロクなもんじゃないというのは、世の常。 作品をいくつも読まずにわかることだが、シリトーの怒りは規模が小さく、それゆえ濃いものになっている。給料が安いことに怒る、嫁の態度が悪いことに怒る、などなど。反体制という感じでは、まずない。たぶん政府打倒とか革命なんてことは、シリトーにはなんの興味もなかったんじゃないだろうか(とはいえ、いくつかの作品で冗談としてロシア革命が使われていることは興味深い)。
前置きが長い文章は屑。というのは世の常。このブログも屑ということになりそうだ(泣)
ネタバレをしない程度にぼやきたい。 男と女がいる。女は別れた女房。戦争が始まる。女房が死ぬ。 話しの筋はこれだけ。というか、ぜひとも読んでほしいので、この程度の説明しかできない。ただ、ある一定の人種にとって、この小説は心臓をえぐりだされそうになる。 スロースロップの心臓もえぐりだされそうになった。苦しいのだ。この小説が語る世界が、男と女の関係が、言葉にできない感情を浮き彫りにして、スロースロップのような人間をいたぶる。
さて、この小説をどう読むか。恋愛? 喪失感? 否。これは人生。
後悔は先に立たず、かといって後にも立たない。ただただ虚しさだけが残る。これはそういう小説。
お前は生まれつき頓馬(デッド)だ、としょっちゅう自分にいいきかせた。誰だって死んでる (デッド)のさ、とおれは答えた。実際死んでる(デッド)んだ、とおれはいいつづける。たいていの奴は、おれに判りはじめたことが判っちゃいねえ。それにしても判ったってどうしようもないころになって、やっと判るなんておれはひどく恥ずかしい。もう今となっちゃあ、万事手おくれだ。 《()内はルビ。最後辺りから引用》
最後に、丸谷才一氏の訳もまた素晴らしい、と付け加えておく。というわけでこれにて、御免!
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